Technology

イメージングシステムを創造する

私たちの強みは、X線・ガンマ線のイメージングシステムを実現するために必要な、

① アナログASICの設計
② センサーモジュール開発
③ 光学系の設計
④ 画像化のためのデータ解析技術

という、コア技術をフルセットで保有していることにあります。
これによって、自社でオンリーワンのイメージングシステムを、ゼロベースから作り上げる開発力を有しています。
また、クライアントのリクエストに応じて、イメージングシステムのデザイン検討や、
ASICやセンサー等の要素技術の共同開発にも積極的に取り組んでいます。

一例として、Kavli IPMUと取り組んだ、
超高空間分解能SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置の開発の流れをご説明します。
装置開発で失敗しないためには、まず最初のシステムデザイン(構造設計・電気設計)が非常に重要です。
起こりうるリスクを事前に想定し、リスクを可能な限り回避した設計をクライアントに提案するために、
装置開発に関する経験の蓄積が求められます。
さらに、私たちは、究極的なパフォーマンスを実現するために、コンピューター上に装置の構造モデルを構築し、
レイトレーシングを用いた正確な散乱・吸収計算を行い、装置構造を最適化しています。
システムデザインが完了すると、次に、
システムの構成要素であるセンサーモジュールや光学系の開発へと進みます。
この過程で①②③のコア技術が生かされます。
これらの構成要素が、開発の最終段階で統合されることで、イメージングシステムが生み出されます。

  • システムのデザイン検討

    システム構造設計、システム電気設計、レイトレーシングによる装置構造の最適化、コスト検討、開発計画の策定。(上図はレイトレーシング用の構造モデル)
  • 構成要素の開発
    (センサーモジュール、光学系など)

    コア技術を生かした開発

    微細ピンホールコリメーター
    CdTeセンサーモジュール試作品
  • イメージングシステムとして統合

  • キャリブレーション画像再構成

  1. アナログASICの設計技術

    シリコン(Si)やテルル化カドミウム(CdTe)などの半導体イメージセンサーは、膨大な数の画素により構成されています。アナログASICと呼ばれる集積回路は、光子がセンサーに入射したときに画素に生じるアナログ信号をキャッチし、各画素で検出した光子数やエネルギーなどイメージングの根幹となる情報を提供する、まさに放射線計測の花形部品です。
    半導体イメージセンサーに生じるアナログ信号は微弱なため、アナログASICの設計には、信号を増幅すると同時にノイズを除去する高度な回路設計技術が要求されます。これらを、消費電力や回路規模といったシステム上の制限、処理速度とアナログ性能のトレードオフ、などといった様々な制約の中で実現することが、エンジニアの腕の見せ所になっています。 iMAGINE-Xは、これまで蓄積してきた放射線計測における実績あるIP(回路設計データ)をベースに、クライアントの要求に応えるアナログASICを設計しています。

  2. センサーモジュール開発技術

    テルル化カドミウム(CdTe)センサーモジュール

    iMAGINE-Xは、半導体イメージセンサーとアナログASICを電子回路基板上に実装した、独自のセンサーモジュールの開発を行なっています。如何に有力なイメージセンサーとアナログASICがあったとしても、それらを歩留まりよく、かつ、ノイズの増加を抑制しつつ接続して機能させなければ、産業用途としての価値はありません。特に、テルル化カドミウム(CdTe)の結晶はもろく、実装は非常に難しいとされてきました。近年、iMAGINE-Xは、CdTe結晶メーカーと協力し、歩留まりを向上させるための特殊な電極構造を持つイメージセンサーの研究開発を進めてきました。

    多数の試作品を作成し、スペクトル性能の評価、接合強度および破壊モードの評価など、様々な視点から総合的な評価を行い、有力な電極構造を見出し、独自の大面積CdTeセンサーモジュールを完成させました。それが、両面 CdTeストリップ検出器 (CdTe-DSD) です。少ない読み出しチャンネルと低消費電力で大きな有効面積(32×32 mm2)を実現しています。さらに、アノードとカソードの両方の信号を用いる特殊な解析アルゴリズムにより、厚型(2 mmt)の素子に対して122 keVで2.5%(FWHM) という極めて高いエネルギー分解能を実現しています。
    このCdTe-DSDは、iMAGINE-Xの量産モデル「XCam-CdTe」に組み込まれています。また、天体観測用の次世代硬X線望遠鏡の焦点面検出器の候補として、NASA(アメリカ航空宇宙局)から搭載の打診もあり、高い評価を得ています。

  3. 光学系の設計技術

    レイトレーシングを用いたコリメーター製造パラメーターの最適化
    3Dプリンター製タングテンコリメーター

    光の進路を変えたり、限定したりする機能をもつ部品を光学系と呼びます。人間の場合には瞳の水晶体がその役割を担っています。X線・ガンマ線は屈折しないため、イメージングのためには、光の進路を限定するコリメーターと呼ばれる部品を用います。ただし、コリメーターの空間分解能と効率はトレードオフの関係にあるため、クライアントの当初要求を完全に満たす設計を提案することは、多くの場合困難です。そのような時、私たちは、まず、このX線・ガンマ線イメージングに特有の光学系のトレードオフをクライアントに十分に説明、被写体のサイズおよび想定される光子数はどれくらいか、必要最低限の空間分解能はどれくらいか、などといった要件・条件の再整理を行い、クライアントと共にコリメーター仕様を決定しています。

    iMAGINE-Xは、これまで、コリメーターの穴径・長さ・隔壁厚といった製造パラメーターを決定するための、独自の計算コードを開発してきました。コリメーターの空間分解能と効率の要求値が計算のインプットとなり、パフォーマンスを最大化する製造パラメーターが算出されます。
    案件によっては、より精緻な設計を行うために、コリメーターのモデルをコンピューター上に構築し、レイトレーシングによって隔壁での光子の散乱や透過率まで計算し、これらの効果を含めて製造パラメーターの最適化を行なっています。iMAGINE-Xの量産モデル「XCam-CdTe」に装着しているコリメーターには、これらの設計技術が存分に適用されています。さらに、最新の金属3Dプリンター技術により、「XCam-CdTe」に最適な、純タングステンのコリメーターの「印刷」を実現しています。

  4. 画像化のためのデータ解析技術

    担がんマウスにおけるAt-211の分布。赤矢印が腫瘍。
    複数の核種(Tc-99m、In-111、I-125)の3D同時可視化。
    Tc-99mを赤、In-111を緑、I-125をシアンで表示。
    (Takeda et al., IEEE TRPMS, 2023)

    イメージングシステムにおいて、センサーモジュールを目とするならば、画像化のためのデータ解析技術はまさに頭脳に相当します。この画像再構成とも呼ばれるデータ解析こそ、メディカルイメージングの花形であって、同時に、ソフトウェアの中で最も難易度が高い開発案件に属します。

    難易度の高さの理由は、放射性同位元素の分布を、高い定量性を持って画像化することが求められていることにあります。この要求に応えるためには、画像化アルゴリズムをソフトウェアに実装するだけでは不十分です。なぜならば、現実に組み上げられた装置は、設計値とのズレという個性を有しており、この個性を表現する情報を、データ解析に適切に組み込む必要があるからです。

    装置の個性を表現する情報を取得する作業をキャリブレーションと呼び、イメージングシステムに命を吹き込むような作業です。iMAGINE-Xは実験物理学者らが設立と運営に深く関わっているスタートアップであり、サイエンスの厳しい要求に応えるための、卓越したキャリブレーション技術を有しています。そのため、iMAGINE-Xが提供する画像は、高い定量性を有しているのです。